成31年4月4日 第5回 愛か恋かゲーム

 2年ほど前にとある方から教えてもらったゲームが面白くて、今もよく引用させてもらっています。
 それは、「愛か恋かゲーム」というものです。これは数人が集まってやるグループワークのようなものです。ルールは簡単です。「高校の入学式で出会った女の子に一目ぼれ」「三十年連れ添った夫婦」「大学4年間付き合ったカップル」など、多種多様なケースを書いた紙を十数個用意し、それらをひとつひとつ「愛か恋か」に仕分けていきます。そのやり方は、皆がどちらか一方にブラインド(お互いの答えが分からない状態)で投票し、全員が「愛」に一致すれば「愛」に(「恋」に一致すれば「恋」に)仕分けます。もし一人でも一致しなかった場合、それが「愛か恋か」を話し合いをして、最終的にグループとしての結論を出します。微妙な例になればなるほど意見が真っ二つに分かれることもあるでしょうが、ここで大事なことは、必ず最終的にどちらかに一方に割り振るということです。どちらでもないよね、とか、多数決でこっち、とかではいけません。徹底的に話し合って、「愛か恋か」をグループとして決定します。そうやって全てのケースを「愛か恋か」に仕分け終わるまでそのサイクルを繰り返すと、最終的にそのグループにとっての「愛」「恋」とは何かが見えてくる。これが「愛か恋か」ゲームです。
 唐突にこんなものを紹介したのはなぜかというと、この愛か恋かゲームは「言葉を定義する」ということについて重要な示唆を与えてくれるからです。

 そもそも、「定義する」とはどういう行為なのでしょうか。
 定義するという意味を持つ"define"は、<強意>の接頭辞"de-"と、「区切り」や「線引き」という意味のある"fine"から成り立つ単語です。つまりdefineとは、「内容を区切り、意味の輪郭を明確にする」ということになります。よって、Aという単語を定義するというのは、「この(ハッキリした)輪郭でこうやってぐるーっと囲ったこの中が"A"ですよー」と宣言するということです。

 さて、さらに考えを進めてみましょう。その「輪郭」というのは、どこに生まれるのでしょうか?
 それを考えるのに、冒頭で述べた「愛か恋かゲーム」が有用です。「愛」が何なのかを考えるのに、100人中100人が「これは愛だ」と判断するものはほとんど役に立ちません。なぜなら、それは「愛」という言葉でぐるーっと囲った丸のど真ん中にあるものであり、その輪郭からは遠く離れているからです。
 重要なのは、意見が割れたものです。ここを議論することが、「愛」という言葉のウチとソト(愛であるものと、そうでないもの)の境界領域にクローズアップすることです。そしてその結果としてウチかソトかを決定することが、「愛」という言葉の輪郭をはっきりさせることにつながるのです。
 つまり、ある言葉Aの輪郭は、「ぎりAなもの」と「ぎりAじゃないもの」の間に生まれるのです。

 冒頭に「よく引用させてもら」うと言いましたが、それはどんな状況かというと、スピーチ作成において言いたいことが何なのかを決めるときです(より正確には、「スピーカーが言いたいことが何なのかを決めるときにどう助ければいいか」を上回生に指導するとき、です)。スピーチをつくるうえで大事なことは、①「自分の頭の中にあるもの」と②「自分の発した言葉を聞いて相手が思い浮かべるもの」が、なるべく同じになることです。そのためには、①の②のどちらにおいても言葉の輪郭をはっきりさせる(=定義する)ことが求められます。
 輪郭を明確にするためにどうすれば良いのかというと、もうお分かりと思いますが、「輪郭のウチとソトどちらなのか微妙なもの」をひたすら検討していくのです。私がよく使うのは、「あなたの言ってる××っていうのは、○○も似ていると思うんだけど、これも含まれるの?」という質問です。どの点においてどのように違うのか(あるいは同じなのか)を、なんとなくの「こういうことね」で片づけず、丁寧に確認をすることが大事です。一つの質問で書ける輪郭は短いものですから、(特に輪郭がぼやっとしているところを中心に)何度も質問を繰り返して、少しずつ輪郭全体を完成させていくのです。

 この思考の仕方は、スピーチ作成だけでなく、自分の言いたいことを明確にしたい様々な場面で利用できると思っています。ぜひ使ってみてください。

1794文字
(計11020文字)