手塚治虫『W3(ワンダースリー)』

 漫画は普段ほとんど読まないのですが、知人に薦められて読んでみたらびっくり、素敵がてんこもりな作品でした! 『手塚治虫文庫』で第1巻・第2巻しかなくてあっという間に読めますが、でも内容がギッシリ詰まりまくっています。
 なるべくネタバレしないように気を付けながら、この本の魅力を紹介してみたいと思います!

魅力① 王道SFとして

 この漫画、色んなジャンルの物語として読むことができるんです。
 まずは王道SF。地球を調査するためにやってきた宇宙人3人組「W3」が主人公なのですが、とにかくオチが素晴らしいです。美しいまでの伏線回収で、私は鳥肌が立つとともに、ああ、この終わり方で良かった、と幸せな気持ちになりました。宇宙人が移動するための「ビッグ・ローリー」など、SF的なアイテムの数々も、少年の心をくすぐられるものばかり。

魅力② 少年の成長物語として

 次にもう一人の主人公である真一の成長物語として。正義感が強過ぎるあまりに学校でいつも暴力をふるってしまう彼が、話を通じて大人になっていく様子が丹念に描かれています。冒頭で、兄の光一が真一に諭す場面がとても好きです。

真一 これだけはいっておく おまえは 子どもだ まず勉強しろ そして……じゅうぶん頭と体力とをそなえてから悪と対決するんだ

 さらに真一の成長を語るうえで外せないのは、馬場先生です。彼は「ひきょうなやつ」ばかりの学校には行きたくないと言う真一を一喝し、こう言います。

ひきょうということはな 学校にいやなやつが多いからといって 家へ逃げ帰って出てこないもののことだ! それからな しゃくにさわってもぐっとこらえるちからがなくて なんでもなぐってしまうやつのことも そういうんだ"

 痺れますね。彼はこの一件以降、馬場先生に柔道を教えてもらい、怒りやストレスを健康的な形で発散するようになります。この辺、精神科で今も行われている運動療法っぽくで面白いですね。

魅力③ キャラ漫画、ギャグ漫画として

 もうこれは理屈は不要ですね。W3は地球に紛れ込むために、それぞれウサギ、カモ、ウマに扮するのですが、とにかくキャラが魅力的でかわいい、ギャグが面白い! 超好き!

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 プッコ、かわいい……

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 手紙を食べちゃうノッコ……

魅力④ 対決シーンがカッコいい

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 この躍動感。

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 この緊迫感ある決闘シーン、カメラのアングルがまるで計算し尽くされた映画のようです。

魅力⑤ コマ割りの自由さ――メタ的な遊び

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 このノッコが飛び上がっちゃうシーン、漫画のコマを捻じ曲げちゃう自由さがあって、とても好きです。「漫画」であることを意識せるメタ的な遊びなのに、ストーリーを邪魔せず、むしろ登場キャラクターに生命力を与えるという不思議さがあります。

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 「じょうだんじゃない」のがよく伝わってきますね。

魅力⑥ 決して説教臭くない、切れ味鋭い風刺

 議会から聞こえてくるのは……

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 物語の終盤も、現代日本にも通じる強烈な風刺が描かれているのですが、ネタバレになってしまうので割愛します。それらだけでなくて、虚構の世界から現実世界を抉る鋭さが随所に見られるのですが、それが説教臭い感じもなくて、バランス感覚が絶妙だなと思います。

終わりに

 かなり散漫な紹介になってしまいましたが、このように、W3は素敵がてんこもりの漫画です! ぜひ皆さん手に取ってみてください!

 漫画といえば、唯一好きな現代漫画家に町田洋という人がいるのですが、こちらもいつか機会あれば紹介できればと思います。