現代お笑い概論

2023年に観たお笑いライブ

昨年は多忙で、現地はおろか、配信でお笑いライブを観ることもめっきり減った。関西に戻ってきたことだし、今年はちょっとくらいは劇場に行きたいが…… 1月1日 マヂカルラブリーno寄席 マヂカルラブリー/ダイヤモンド、ランジャタイ、ザ・ギース、脳みそ夫、…

M-1グランプリ2023所感

今年は腰を据えてガッツリとした分析を書く暇がないため、タイトルを「所感」としている。 漫才を批評する際に、何となく前提とされる二項対立がある。それは「大喜利漫才-システム漫才」である。大喜利漫才というのはボケの「強さ」で勝負する漫才であり、…

M-1における「競技漫才」と、THE SECONDにおけるまだ名前のついていない何か

2023年5月20日に行われたTHE SECONDは、6分という制限時間と、観客審査、そして16年以上の芸歴という3つの要素でM-1とここまで違う大会になるのだという驚きがあった。4分の競技漫才では行うのが難しいことと、減点対象になったであろうことに注目して比較し…

M-1グランプリ2022分析

序 カベポスター 真空ジェシカ オズワルド ロングコートダディ さや香 男性ブランコ ダイヤモンド ヨネダ2000 キュウ ウエストランド 結 序 客観的な分析を始める前に、私情を書いておく。私は2012年のTHE MANZAIの認定漫才師になったことでウエストランドを…

2022年に観たお笑いライブ

12月29日 黒帯会議 年末SP② 12月21日 門野という男 12月17日 黒帯会議 年末SP① 12月2日 マイナビ presents ほら!ここが父ちゃんちの踊り場 11月20日 赤もみじの道程 11月20日 千鳥の大漫才2022 11月7日 トークライブ黒帯と中山さん 9月23日 9月9日 シン・り…

2021年おもしろかった番組ベスト25

あとあとこういうのが残っていると楽しいかなと思い、今年から始めてみました。ベスト10まではほとんど揺るぎなくすぐに決まりました。 25位 にちようチャップリン 〜2週ぶち抜き! 賞レース惜しかった芸人大集合SP〜(3月6日放送) 「(一見)おかしい人…

2021年に観たお笑いライブ

2021年(配信ライブ) 12月27日 黒帯会議 12月12日 真面目な勇者ああああ~ゲーム番組なのでちゃんとゲーム企画をやりましょう~ 12月3日 M-1グランプリ2021 準決勝 11月30日 黒帯会議 11月22日 空気階段の大踊り場 11月20日 千鳥が1時間新ネタだけをするLIV…

M-1グランプリ2021批評

「感想」ではなく「批評」をタイトルにしたのは、批評から逃げるな、という自戒からです。以下、敬称略で失礼します。 敗者復活戦 5. ハライチ 自分は『ハライチのターン』リスナーで紛れもなく彼らのファンなのだが、以前『ゴッドタン』の一企画において、…

M-1グランプリ2020感想

マヂカルラブリーは漫才でいいのかあかんのか問題 漫才でいい:99票 阪急電車に一礼をしない:1票 素晴らしい漫才でしたね。 0. 「マヂカルラブリーは漫才か」 1. はじめに 2. 『吊り革』のグルーヴ感 3. おいでやす小田の叫び 4. 賞レース漫才における「伏線…

2012年-2020年に観たお笑いライブ

2020年(配信ライブ) 12日24日 Dr.ハインリッヒトークライブ「ディアロークハインリッヒ15」 12月22日 terauchi寄席 12月5日ニューヨークと愉快な仲間達in祇園花月 12月2日 M-1グランプリ2020 準決勝 11月28日 裏勇者ああああ~ゲームあんまり関係ない悪ふ…

<裏>と<表>の奇妙な共存——今更ながら「せっせっせいや」を考える

はじめに ゼロ年代とテン年代のお笑い界 リズムネタの脱構築 <裏>と<表>の奇妙な共存 おわりに はじめに 以下の動画を観た友人から、質問を受けた。せいやさんが自らの「せっせっせいや」というネタを「ブリッジが長いっていうネタ」「一個乗ってる芸」…

<お笑いと社会 第2回> バラエティ番組の「いじり」は「いじめ」なのか

前回は、ごっこ遊びの定義と日常世界における「いじり」について考えました。今回はまずその内容をおさらいしてから、バラエティ番組における「いじり」について考えてみましょう。なるべく前回を読まなくても本記事だけで内容を理解できるように書こうと思…

お笑いを批評すること、楽しむこと

本稿では、お笑いを「批評する」ということと「楽しむ」ということについて、現時点で考えていることをつらつらと書いておこうかなと思います。 *** 以前書いた以下の文章で、お笑いの知識をつけ、分析をし、「批評」していくなかで「何も考えず、純粋に…

<お笑いと構造 第10回> 現代ツッコミ論考

前回は、「既存のお笑い体系からの脱出法」と題して、メタとシュール、そしてぺこぱをテーマに解説をしました。 satzdachs.hatenablog.com 今回は、漫才の進化が顕著に分かる別の題材として、「ツッコミ」に焦点をあてたいと思います。ただ、「現代ツッコミ…

私たちはぺこぱの何を笑っているのか——相対主義の限界と可能性

<第Ⅰ部> 相対主義の可能性 1-1. ぺこぱは「お笑いの末期」なのか 1-2. 「変」を笑うだけがお笑いではない 1-3. 「女どうしが結婚したって別にいいじゃないか!」 1-4. 松陰寺の何が「変」なのか <第Ⅱ部> 相対主義の限界 2-1. 文化相対主義の限界 2-2. ぺ…

<お笑いと社会 第1回> 「いじり」とは「ごっこ遊びすること」である

このシリーズは、「バラエティ番組の『いじり』は日常生活の『いじめ』を助長するのか?」という問いに答えるため、一年弱かけて不定期に連載してきました。今回、また記事を書くにあたって読み返してみると、長期間にわたって書いてきたために議論が混乱し…

<旧版・お笑いと社会> 日常世界における「いじり」と「いじめ」

前回まで、バラエティ番組における「いじり」と「いじめ」の関係について、ごっこ理論をヒントに考えてきました。 satzdachs.hatenablog.com 今回は、日常生活でも頻繁にみられる「いじり」と「いじめ」の関係について考えていきたいと思います。 1. 「いじ…

<お笑いと構造 第9回> 既存のお笑い体系からの脱出方法――シュール、メタ

前回は、<お笑いと構造>応用編の第一回目として、天丼をテーマに論じました。 satzdachs.hatenablog.com そこで最後にとりあげたのが千鳥の「開いてる店は開いてるけど、閉まってる店は閉まってる」漫才であり、これが既存のお笑い体系からの脱出の一つの…

<お笑いと構造 第8回> 天丼はどこまで盛れるか?

前回まで、お笑いの構造分析の三尺度として意外感・納得感・期待感を紹介し、さらにそれを先行文献と比較しつつ検討しました。 satzdachs.hatenablog.com 基礎理論の解説を終え、今回から個別の事例を取り上げて分析する応用編が始まります。その初回のテー…

<お笑いと構造 第7回> 先行文献との比較:森下伸也・桂枝雀・カント

前回まで、「お笑いの構造分析における三尺度」として、意外感・納得感・期待感について解説してきました。どうでもいいですが、少し順番を変えて「な・い・き」という語呂合わせだと覚えやすいです。 satzdachs.hatenablog.com 今回は、三尺度の応用編に入…

お笑いを語ることの罪、あるいは観ることの儘ならなさ

以前、「お笑いについて語るときに僕の語ること」というタイトルで文章を書きました。 satzdachs.hatenablog.com 本稿では、それから少し考えが更新されたので、改めて今の自分なりのお笑いとの向き合い方を書いてみようかなと思っています。まずは、私がお…

M-1グランプリ2019ファイナリストをとにかく褒める

12/22(日)にM-1グランプリの決勝が行われ、見事ミルクボーイが優勝しました。おめでとうございます。拙稿では、M-1グランプリ2019ファイナリスト9名+1名(敗者復活)の面白さとは何なのか、とにかく褒めることを目指して具体的に言語化していきます。お笑い…

<お笑いと構造 第6回> お笑いの構造分析における三尺度 ③期待感

前回まで、三尺度のうち「意外感」と「納得感」について解説してきました。今日はいよいよ、三尺度の最後の一つ「期待感」についてお話します。 satzdachs.hatenablog.com 天然でドジばかりの愛されA子ちゃん 吉本新喜劇――King of "お約束" 「ポンコツ芸人」…

<お笑いと構造 第5回> 「拮抗性」への自己反論 ーー伏線回収に見られる相乗性

文狸(ぶんり)です。前回は意外感と納得感の拮抗性について解説しました。 satzdachs.hatenablog.com 本稿では、「『拮抗性』への自己反論」と題して、意外感と納得感が相乗的に作用して笑いが生み出される場合について考えます。 2700のネタ「寿司屋」 共…

<お笑いと構造 第4回> 意外感と納得感の拮抗性――あるあるネタ、大喜利をケースに

文狸(ぶんり)です。前回まで、お笑いの構造分析の三尺度のうち、「意外感」「納得感」について説明してきました。 satzdachs.hatenablog.com 「意外感の笑い」「納得感の笑い」というのがそれぞれ単独で存在するわけではなく、私の分析では、一つの対象に…

<旧版・お笑いと社会> バラエティ番組の「いじり」は「いじめ」なのか――ごっこ理論をヒントに考える

必ず「虚構を怖がる Fearing Fictions」を読んでから本稿をお読みください。 satzdachs.hatenablog.com 本稿は、平成31年4月29日に書いた記事「バラエティ番組はいじめを助長するか」を全面的に改稿しました。最初に自分の立場だけ明らかにしておくと、私は…

<旧版・お笑いと社会> 虚構を怖がる Fearing Fictions

文狸(ぶんり)です。本稿は、分析美学を専門とする哲学者ウォルトン(K. Walton: 1939~)の1978年の論文「虚構を怖がる Fearing Fiction」*1をもとに、虚構作品を楽しむとはどういうことか、論じていきたいと思います。 この論文が批判されているところでも…

<お笑いと構造 第3回> お笑いの構造分析における三尺度 ②納得感

文狸(ぶんり)です。前回は、お笑いの構造分析の三尺度「意外感」「納得感」「期待感」のうち、「意外感」について説明しました。今日は二つ目、「納得感」について解説していきます。まずは、漫才におけるツッコミをきっかけとして考えていきましょう。 sa…

<お笑いと構造 第2回> お笑いの構造分析における三尺度 ①意外感

文狸(ぶんり)です。前回は、全てのお笑いが共通してもつ構造を、「自分が面白いと思ったものを、なぜ面白かったのか後から分析する」というスタンスのもと、「意外感」「納得感」「期待感」という観客視点の3つの言葉を使って納得可能な説明を目指す、と…

<お笑いと構造 第1回> お笑いについて語るときに僕の語ること

本稿は、以前に書いた記事「上沼さん騒動をきっかけに考える——笑いについて語るということ」と一部内容の重複があります。 satzdachs.hatenablog.com 「現代お笑い概論」について お笑いを語るというのは、どういうことか 私のスタンス――構造主義の立場から …