2019-01-01から1年間の記事一覧

もうすぐ僕は学生ではなくなるし、青春は終わるし、いつか死ぬ。

ああ なんとなく僕たちは大人になるんだああ やだな やだななんとなく いやな感じだ―銀杏BOYZ “なんとなく僕たちは大人になるんだ” これから僕が書くのは、ほんとうに当たり前の話ばかりですが、ここ最近で現実の手触りが大きく変わったことで、その感触をど…

M-1グランプリ2019ファイナリストをとにかく褒める

12/22(日)にM-1グランプリの決勝が行われ、見事ミルクボーイが優勝しました。おめでとうございます。拙稿では、M-1グランプリ2019ファイナリスト9名+1名(敗者復活)の面白さとは何なのか、とにかく褒めることを目指して具体的に言語化していきます。お笑い…

2019年7月〜12月に読んだ本

7月 19054 W3 第1巻・第2巻(手塚治虫/手塚治虫文庫全集) 以前紹介しました。 satzdachs.hatenablog.com 19055 現代思想 第45巻20号 岸政彦と國分功一朗の対談がとにかく面白かったです。特に「抽象」と「一般化」について社会学者と哲学者がそのスタンスの違…

<お笑いと構造 第6回> お笑いの構造分析における三尺度 ③期待感

前回まで、三尺度のうち「意外感」と「納得感」について解説してきました。今日はいよいよ、三尺度の最後の一つ「期待感」についてお話します。 satzdachs.hatenablog.com 天然でドジばかりの愛されA子ちゃん 吉本新喜劇――King of "お約束" 「ポンコツ芸人」…

受験戦争と新自由主義

本稿では、いわゆる受験戦争を勝ち抜いてきた高学歴の学生と新自由主義の相性がなぜ良いのかをまず論じ、医学部においてそれがどのように表出しているのかに目を向けたあと、教育において何をすべきかについて考えてみたいと思います。 1. 上野千鶴子の東大…

<お笑いと構造 第5回> 「拮抗性」への自己反論 ーー伏線回収に見られる相乗性

文狸(ぶんり)です。前回は意外感と納得感の拮抗性について解説しました。 satzdachs.hatenablog.com 本稿では、「『拮抗性』への自己反論」と題して、意外感と納得感が相乗的に作用して笑いが生み出される場合について考えます。 2700のネタ「寿司屋」 共…

<お笑いと構造 第4回> 意外感と納得感の拮抗性――あるあるネタ、大喜利をケースに

文狸(ぶんり)です。前回まで、お笑いの構造分析の三尺度のうち、「意外感」「納得感」について説明してきました。 satzdachs.hatenablog.com 「意外感の笑い」「納得感の笑い」というのがそれぞれ単独で存在するわけではなく、私の分析では、一つの対象に…

嫉妬の理由

私は今、嫉妬している。それも、一度も会ったことすらない人に。 *** その感情は、まず苛立ちとして現れた。Twitterでたまたまその人のアカウントを見つけ、フォローをして少し経ったときのこと。その人がnoteに書いた文章と、それを称賛するツイートがRT…

『出来損ないの小説家』書評

久しぶりに短編小説『出来損ないの小説家』を読み直し、書評を書こうと思い立ち筆をとった。ネタバレ有りですのでまだ読んでいない方はご注意を。 荒井という男は、自分を見る冷ややかな目線を携えている一方で、「世界を変えたいから小説を書くんだ」と(本…

断片たち ー怒りについて

ひとりで飲むときはいつも同じバーに行く。この前は近くの小料理屋の料理人と隣り合わせになった。「昔ペーペーやった頃、先輩がお客さんに『捌くの上手いですね』って言われたときに『こんなん誰でもできますから』って答えてるの見て、それはちゃうやろっ…

<旧版・お笑いと社会> バラエティ番組の「いじり」は「いじめ」なのか――ごっこ理論をヒントに考える

必ず「虚構を怖がる Fearing Fictions」を読んでから本稿をお読みください。 satzdachs.hatenablog.com 本稿は、平成31年4月29日に書いた記事「バラエティ番組はいじめを助長するか」を全面的に改稿しました。最初に自分の立場だけ明らかにしておくと、私は…

雑記

・私と池尻達紀さんらで書いた論文を、奈良県立医大の地域医療講座の准教授の先生のブログで紹介してもらっているのを見つけました。この感じだと、奈良医で実際に行われている授業の一資料として使われている……? 論文としてこの世に出した意味を感じます。…

<旧版・お笑いと社会> 虚構を怖がる Fearing Fictions

文狸(ぶんり)です。本稿は、分析美学を専門とする哲学者ウォルトン(K. Walton: 1939~)の1978年の論文「虚構を怖がる Fearing Fiction」*1をもとに、虚構作品を楽しむとはどういうことか、論じていきたいと思います。 この論文が批判されているところでも…

「変人」な京大生――「役割距離」から考える

「京大変人講座」というのがある。 www.gaia.h.kyoto-u.ac.jp HPを見ると「京大では『変人』はホメ言葉です」という文面がサブタイトルとして掲げられているのだが、要は、京大の「変人性」こそがイノベーションの源であるとして、「変人」たる京大の教員や…

初めての入院体験記

22歳男性【主訴】右胸部痛、呼吸困難感、咳嗽【現病歴】今朝起床時は無症状。大学で実習中、10時頃から突然咳嗽が出現。徐々に右胸部痛、呼吸困難感を伴い始める。12時半頃当院救急外来にウォークインで受診。【胸部Xp所見】肺虚脱度: 中程度【プロブレムリ…

医学教育学会大会がつまらなかった

煽情的なタイトルをつけたあとに大慌てで、医学教育学会大会全体がというわけではなくて、あくまで私がいた部屋のセッションが、という意味だということを付け加えておく。 7/26(金)・7/27(土)と京都府立京都学・歴彩館/稲盛記念会館で第51回日本医学教育学…

すでに「よそ者」ではない

この3連休で、「野田村 第1回 ごちゃまぜワークショップ」に参加していた。2泊3日で村中をフィールドワークをして、最終日に学生(医学、看護、歯学、社会福祉)が『村を良くするためのプラン』を発表するという企画で、過去に福島県飯舘村で行われたものに3回…

「わかる」がわからない

哲学者になる気は毛頭ないのだが、何を論じるにも基礎体力として必要になるし、何より物事を語る語彙を豊富にしてくれるので、恥ずかしながら、ちょびちょびと、独学で、哲学の勉強を続けている。例えば、今はカントについて大学に入りたての頃よりわかった…

中動態セミナー覚え書き

中動態についての國分功一郎と斎藤環のセミナーに参加しました。以下、覚え書きです。 https://www.nhk-cul.co.jp/programs/program_1180105.html ・もともと私は、孤独死問題において頻回に問題になる「自由意志」について、それは思うほどsolidなものでは…

手塚治虫『W3(ワンダースリー)』

漫画は普段ほとんど読まないのですが、知人に薦められて読んでみたらびっくり、素敵がてんこもりな作品でした! 『手塚治虫文庫』で第1巻・第2巻しかなくてあっという間に読めますが、でも内容がギッシリ詰まりまくっています。 なるべくネタバレしないよう…

医師という、得体の知れない何か

「一部の人文社会科学研究者は『医師』という大きな主語で語り過ぎではないか?」と前から思っている(と言うとき私も、『人文社会科学研究者』という大きな主語で語っていることは自覚している)。例えば「医師は『合理的な専門家 vs 非合理な素人』の枠組…

2019年1月〜6月に読んだ本

1月 19001 都市文化と東洋医学 (マーガレット・ロック/思文閣出版) 日本における東洋医学の実践をフィールドワークした本作。読みながら「何を当たり前のことを言っているんだ」と浅さを感じていたが、その理由が民族誌を「原住民」の立場から読んでいるから…

國分功一朗『中動態の世界』(医学書院、2017)

中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) | 國分功一郎 |本 | 通販 | Amazon 昨晩、お久しぶりの方と色々お話していて、今もやもや考えていることを根本から解決するきっかけの一つとして、"中動態"という概念がやはりあるのではないかとい…

休日の過ごし方

今日は大学の創立記念日で実習が休みで、Nと出町座で『愛がなんだ』という映画を観た。煮え切らなさを煮詰めたような作品だった。そのあとは鴨川デルタに座りこみ、缶ジュースを飲みながら覇気のない会話をした。犬に引っ張られるようにして飛び石を渡る女の…

池田清彦『構造主義科学論の冒険』(講談社学術文庫、1998)

この本のおかげで、カント、ソシュール、フッサール、ウィトゲンシュタインらの哲学を個別には何となく知っているつもりではありましたが、それらが初めて有機的につながって理解できました。おすすめです。以下、本からの一部抜粋です(文頭の数字はページ…

2018年7月〜12月に読んだ本

7月 18053 カステラ(パク・ミンギュ/クレイン) ★★18054 社会的孤立問題への挑戦 (河合克義/法律文化社)18055 哲学としての医学概論 (杉岡良彦/春秋社) ★★18056 拳闘士の休息(トム・ジョーンズ/新潮文庫)18057 患者は誰でも物語る (リサ・サンダース/ゆみる出…

2018年1月〜6月に読んだ本

1月 18001 文藝芸人(文藝春秋)18002 嫌われる勇気18003 さらば、資本主義18004 ねじ子とパン太郎のモニター心電図18005 中動態の世界 ★★18006 医学思想史18007 イワン・イリッチの死18008 医療人類学のレッスン ★ 2月 18009 君たちはどう生きるか18010 西田…

若林正恭『ナナメの夕暮れ』(文藝春秋、2018)

ロフトのバレンタインの広告が炎上しています。 www.huffingtonpost.jp この件に対して「時代遅れの、サブカル系「斜め見」カルチャーを未だにやり続けているのかもしれない」というTwitterのコメントを見て、的を射た意見だと思うと同時に、この本を思い出…

姫野桂『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書、2018)

www.amazon.co.jp 「発達障害は大きく3つに分類されている。独特なルールがあったりコミュニケーションに問題が生じることが多いASD(自閉症スペクトラム症)、衝動的な言動や不注意などが目立つADHD(注意欠陥・多王政障害)、知的な問題はないのに簡単な…

グレゴワール・シャマユー『人体実験の哲学――「卑しい体」がつくる医学、技術、権力の歴史』(明石書店、2018)

www.amazon.co.jp 人体実験に供与されてきたのはどのような人々だったのか、また彼らはどのような理屈をもってその時代に「卑しい体」とされたのか。政治思想史、医学史の両分野から読み解く良書。かなり分厚いですが文章自体は読みやすくサクッと読めます。…