國分功一朗『中動態の世界』(医学書院、2017)

中動態の世界 意志と責任の考古学 (シリーズ ケアをひらく) | 國分功一郎 |本 | 通販 | Amazon 昨晩、お久しぶりの方と色々お話していて、今もやもや考えていることを根本から解決するきっかけの一つとして、"中動態"という概念がやはりあるのではないかとい…

休日の過ごし方

今日は大学の創立記念日で実習が休みで、Nと出町座で『愛がなんだ』という映画を観た。煮え切らなさを煮詰めたような作品だった。そのあとは鴨川デルタに座りこみ、缶ジュースを飲みながら覇気のない会話をした。犬に引っ張られるようにして飛び石を渡る女の…

池田清彦『構造主義科学論の冒険』(講談社学術文庫、1998)

この本のおかげで、カント、ソシュール、フッサール、ウィトゲンシュタインらの哲学を個別には何となく知っているつもりではありましたが、それらが初めて有機的につながって理解できました。おすすめです。以下、本からの一部抜粋です(文頭の数字はページ…

2018年7月〜12月に読んだ本

7月 18053 カステラ(パク・ミンギュ/クレイン) ★★18054 社会的孤立問題への挑戦 (河合克義/法律文化社)18055 哲学としての医学概論 (杉岡良彦/春秋社) ★★18056 拳闘士の休息(トム・ジョーンズ/新潮文庫)18057 患者は誰でも物語る (リサ・サンダース/ゆみる出…

2018年1月〜6月に読んだ本

1月 18001 文藝芸人(文藝春秋)18002 嫌われる勇気18003 さらば、資本主義18004 ねじ子とパン太郎のモニター心電図18005 中動態の世界 ★★18006 医学思想史18007 イワン・イリッチの死18008 医療人類学のレッスン ★ 2月 18009 君たちはどう生きるか18010 西田…

若林正恭『ナナメの夕暮れ』(文藝春秋、2018)

ロフトのバレンタインの広告が炎上しています。 www.huffingtonpost.jp この件に対して「時代遅れの、サブカル系「斜め見」カルチャーを未だにやり続けているのかもしれない」というTwitterのコメントを見て、的を射た意見だと思うと同時に、この本を思い出…

姫野桂『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書、2018)

www.amazon.co.jp 「発達障害は大きく3つに分類されている。独特なルールがあったりコミュニケーションに問題が生じることが多いASD(自閉症スペクトラム症)、衝動的な言動や不注意などが目立つADHD(注意欠陥・多王政障害)、知的な問題はないのに簡単な…

グレゴワール・シャマユー『人体実験の哲学――「卑しい体」がつくる医学、技術、権力の歴史』(明石書店、2018)

www.amazon.co.jp 人体実験に供与されてきたのはどのような人々だったのか、また彼らはどのような理屈をもってその時代に「卑しい体」とされたのか。政治思想史、医学史の両分野から読み解く良書。かなり分厚いですが文章自体は読みやすくサクッと読めます。…

佐藤純一 編『文化現象としての癒し : 民間医療の現在』(メディカ出版、2000)

www.amazon.co.jp 「これって、すごい効くらしいなあ」 そう言って母が見せてきたのは、新聞の広告。黒地に白抜きでデカデカと「塗るだけで絶対に治る! ×××」と書かれている。僕はすぐさま「そんなんインチキに決まってるやん」と言いかけるが、逡巡する。…

令和1年5月1日 あとがき

だから、こういうことについて肝心なことは、いつでも自分が本当に感じたことから出発して、その意味を考えていくことだと思う。ーー『君たちはどう生きるか』吉野源三郎 コペル君の叔父さんがこう言っていたように、全31回、自分の経験を出発点として丁寧に…

平成31年4月30日 第31回 パッチワークをつくりながら生きていく

家の中でお風呂上りに裸を見られるのと、修学旅行先の温泉で男友達に裸を見られるのとでは、わけが違う。 それは、「見られているという意識」があるかどうかの違いだ。 無防備に何も考えていないときと比べて、今同級生にどう見えているのだろうとドキドキ…

平成31年4月29日 第30回 バラエティ番組はいじめを助長するか

めちゃイケという番組が昨年の3月に終了しました。(私の誕生年月と同じ)1996年10月にスタートし、一躍人気を博してフジテレビを代表するバラエティー番組となり、私が物心ついたときには既に「土曜8時はめちゃイケ」が当たり前でした。間違いなく、私をお…

平成31年4月28日 第29回 いじりといじめ――「虚構のリアル」という共犯関係をめぐって

私は、基本的には自分が「いじられキャラ」だと思っています。 最初は自分から望んだわけではなく、むしろ完璧人間になりたかったのですが、現実は何をやってもボロが出てしまう人間で、気が付いたらそうなっていました。でも、自分のハードルを下げておけば…

平成31年4月27日 第28回 外面、内面、イスラーム

褒められるのが極度に苦手です。一時期、服を褒められたとき、「これ、全部道で拾ってきたやつなんですよ!」いう意味不明の返し方をしていました。そういう表面的なものはまだいいのですが、自分の人間性について褒められると特に困ります。後輩から尊敬の…

平成31年4月26日 第27回 人の痛みを慮る: TとNの対話篇

対話篇①-2018年11月某日T: 俺、これに何となくモヤっとするんよな。 www.kikin.kyoto-u.ac.jp N: なんで?T: それが上手く言語化できないからお前に喋ってんねん。何やろな……まず、美の概念を「ぶっ壊す」っていう言葉が引っかかる。N: どういうこと?T: 世…

平成31年4月25日 第26回 医学生とは何か

「××××××××××××××××××」という企画の一環で、医学部と法学生とで一緒に安楽死がテーマの勉強会をしたときのことです。その勉強会で大切にしていたことのひとつが「自分ごととして考える」で、その前提を共有したうえで議論をしようとすると、皆の意見に最初…

平成31年4月24日 第25回 がんばらなくてもいいと思う

池江璃花子さんは、計18種目の日本記録を保持している一流の競泳選手です。2月、池江選手は白血病という診断が下されたことを公表しました。そのあとすぐに、Twitterで以下のような文章をあげていました。 応援してくださる皆様、関係者の皆様へご報告があり…

平成31年4月23日 第24回 ヒッピーおじさん

このあいだ、バーに行ったら、ヒッピーみたいなおじさんに会った。 行きつけのバーの入り口はちょうど人の体の横幅くらいで、とても狭い。入り口を入って細長い廊下を抜けると、今度は横長に6畳くらいのスペースで店内が広がっている。向かって左半分はカウ…

平成31年4月22日 第23回 言葉のウチとソト

少し前に読んだ牧野成一『日本を翻訳するということ』(中公新書)に出てきた、「ウチ」と「ソト」という概念がとても印象に残っています。一連のエッセイのなかでも、実はウチとソトという単語を何度か使っているのですが、牧野のそれを意識して登場させて…

平成31年4月21日 第22回 場をつかむ

本稿では、大学で取り組んできた英語スピーチ競技について、どうすれば観客の頭にメッセージを残せるかという私の考えを共有しつつ、「場をつかむ」とはどういうことか、皆さんに問いかけていきたいです。 7分という制限時間に収まるのは平均して850〜1000 w…

平成31年4月20日 第21回 死にたくない

昨年、祖父が死んだ。葬儀で、私は何があっても泣いてはいけないと思っていた。 祖父の病態が悪化していった過程は典型的なもので、何の変哲もないと言ってしまうこともできる。あっちの手術をしたと思えばこっちで悪いところが見つかって、こっちの治療をし…

平成31年4月19日 第20回 財布見つかった

昨日の夕方、知らない番号から電話がかかってきていた。かけ直すと地元の警察署で、財布が見つかったという知らせだった。嬉しくて私は思わず天を仰いだ。何とも優しい世界に生きているなとしみじみ思った。 免許証、保険証、マイナンバーカード、銀行のカー…

平成31年4月18日 第19回 お望みのジュースを出してあげる

人は自販機ではない。 先日、親友のNがふとした拍子にぽろっと吐いていたこの言葉が、とても印象に残っています。 コミュニケーションにおける「自販機」という言葉を「ラインナップの中から押したボタンのリアクションが出てくる状態になること」として最初…

平成31年4月16日 第17回 中川医学概論は(いつ)やるべきか

先日、新入生セミナーという××医学部の新入生向けのイベントのスタッフをしていました。学生の自主的な運営で、「大学に入ったらこんなことができるんだ!」と視野を広げてもらうためにやっているのですが、その目玉企画が、4,5人の小グループに分かれ先輩の…

平成31年4月15日 第16回 自然言語にwell-definedを求めるな

いつだったか、トイレの張り紙の「トイレの紙以外は流さないでください」という注意書きに対して、 うんこも流してはいけないのですか? こまります という屁理屈が落書きされている画像がTwitterで流れてきたました。これはこれで面白いのですが、自分的に…

平成31年4月14日 第15回 じぶんという輪郭

【第5回 愛か恋かゲーム】で、言葉を定義する(define)とは輪郭を描くことであり、輪郭というのは、「それ」と「それ以外」の間に立ち現れてくる境界である、という話をした(こう書くと、少しトートロージーに聞こえる)。この輪郭という考え方は、何も言葉…

平成31年4月13日 第14回 孤独死に関する3つの問い

1年生の夏休み、私は『××県へき地医療実習』というプログラムで××県の××村にある診療所で2泊3日の実習をしました。【第7回 辺縁を歩くためには芯が要る】でお話したように当時は希望も何もない時期でしたので、その閉塞感を打ち破るという意味と、旅費と宿泊…

平成31年4月12日 第13回 財布見つからない

財布が見つからない。あるいは、もう諦めるとするならば、見つからなかった。 現金約9000円、図書カード約5000円分、クレジットカード2枚、デビットカード1枚、運転免許証、マイナンバーカード、保険証、その全てを失った。そして、失くした財布自体が、私の…

平成31年4月11日 第12回 ドベネックの桶的「正しさ」

先月、南海キャンディーズの山里さんが自身のラジオで「最近のテレビは怒ってる人ばっかり」と言っていたことが少し話題になっていました。テレビ好きな私が最近抱いていた感想と全く同じでした。 今、日本は「正しくなきゃけない」時代にあると思います。正…

平成31年4月10日 第11回 SUSHIBOYS: 意味性の軽やかな跳躍

私は昔からよく『無駄時間計算』をしてしまいます。 一日の終わりに、「今日どれだけ無駄な時間を過ごしたか」の総量を算出し、「今日もこれだけ無駄にしてしまった、明日はもっと生産的に生きなければ」と後悔する、というやつです。この『無駄時間』を少し…